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ツヤハダゴマダラカミキリに振り回された一日

  • 執筆者の写真: eirikisunamura
    eirikisunamura
  • 6月24日
  • 読了時間: 5分

今日、自宅から徒歩5分ほどのカツラ並木で、特定外来生物ツヤハダゴマダラカミキリを発見してしまいました。


私が住む町では昨年初確認されたものの、この地域ではまだ見つかっていなかったはずです。カツラはツヤハダが好む樹種。引っ越してきて以来2年間、ときどき並木を見に行っては、産卵痕や脱出孔が出来ていないか確認していました。


そして、とうとう来ました。

何本かの木に、明らかな産卵マーク、脱出孔、フラス。

「いつからいたんだろう……」

1年以上気づけていなかった可能性もあり、悔しい気持ちになりました。


新しい産卵マーク(画面下中央1/3ぐらいのところの黄色いまる)
新しい産卵マーク(画面下中央1/3ぐらいのところの黄色いまる)
古そうな脱出孔
古そうな脱出孔
フラス
フラス
特徴的な枝枯れ
特徴的な枝枯れ

今日は出張でした。

普段は車通勤なのですが、たまたま電車移動の日だったので、「せっかくだから並木を見回ってから駅へ向かうか」と思ったのです。

すると、新しく付けられたらしい産卵マークを発見しました。

ツヤハダのメスは産卵時に樹皮を削ります。できたばかりの傷は鮮やかな黄色をしていて、見る人が見ればすぐ分かります。

そして、その瞬間に思いました。

「これを付けた犯人を捕まえたい」

繁殖防止のためでもあります。

研究者としての使命感でもあります。

しかし、それ以上に、たぶんハンターとしての本能です。


そこで予定していた電車に乗るのは諦め、カツラ並木巡回を開始。

同じ木を何度も見に行き、周囲を歩き回り、幹を見上げ続けました。

周りの人から見たら、少し怪しかったかもしれません。

しかし、スーツを着たサラリーマン風だったので、不審者ほどではない…はず。

30分ほどねばって、最後に、幹の低い位置におりてきて堂々と交尾中のペアを発見。

逃がすものか。

そっと近づき、さっと素手で確保しました。


交尾中のペア
交尾中のペア

ここで新たな問題が発生します。

証拠標本を残さなければなりません。

しかし、今日は虫を入れる容器を持っていません。

さらに、ツヤハダゴマダラカミキリは特定外来生物です。

外来生物法により、生きたまま運搬することは禁止されています。

つまり、

「捕まえた。でも容器がない。しかも生かしたまま持ち歩いてはいけない」

という状態です。

とりあえず近くの公民館へ向かいました。

自販機でペットボトル飲料を買い、その場で飲み干して容器に入れよう。

完璧な計画です。

ところが。

自販機には無情な表示。

「新千円札つかえません」

財布には新千円札しかありません。

詰みました。


そのときです。

公民館の机の上に消毒用エタノール。

その横のゴミ箱に空のミネラルウォーターペットボトル。

視界に入りました。

手段を選んでいる場合ではありません。

私は覚悟を決めました。

ゴミ箱から空ペットボトルを回収。

消毒用エタノールを数プッシュ。

そこへツヤハダを投入。

これで殺虫完了です。

さらにペットボトルの外側もエタノールで消毒。

たぶん衛生面も大丈夫です。

たぶん。

こうして私は、エタノール漬けツヤハダ入りペットボトルを持って出張へ向かうことになりました。

客観的に見ると、けっこうな奇行と思います。


もちろん、自宅へ戻って容器を手に入れるという選択肢もありました。

しかし、今日にかぎってそれはできませんでした。

昨日、息子が幼稚園でトイレの鏡をハンドソープまみれにするといういたずら事件を起こしていたのです。

そのため今日は妻が息子を連れて謝罪に行く予定でした。

私も同行を考えましたが、出張に間に合わなくなる可能性もあります。

……もっとも、そのわりに30分間ツヤハダ探索をしていたのですが。

とにかく、出発前後の慌ただしい時間帯に家へ戻って妻子の邪魔をしたくなかったのと、少なくとも息子からすれば私は楽しい虫捕りをしてウキウキと家に帰って来たようにしか見えないはずなので、外でできる処置ですませ、そのまま駅へ向かいました。


そして到着した出張先は横浜。

実は横浜は、日本におけるツヤハダゴマダラカミキリ侵入史の中で特別な場所です。

2002年、国内で初めて侵入が確認された場所であり、その後見事に根絶が達成されています(高橋・伊藤 2005)。


場所は馬車道駅近くのアキニレ並木。

午後から用務だったので、当初は久しぶりに中華街のお気に入りの店で昼食でもと思っていました。

しかし、朝からツヤハダに振り回された結果、妙な運命を感じ始めていました。

ランチよりも行くべき場所がある。

そうだ、文献で読んだ、あのアキニレ並木へ行こう。


馬車道のアキニレ並木。樹皮が特徴的です。イナワシロンもいます。
馬車道のアキニレ並木。樹皮が特徴的です。イナワシロンもいます。

現地のアキニレ並木は今も健在でした。

もちろんツヤハダの痕跡はありません。

昼休みの人たちが木陰のベンチで休んでいます。

24年前、この場所では日本初侵入のツヤハダとの戦いが始まっていた。

今は平穏そのものです。

並木を見上げながら、当時の関係者の苦労や緊張感を想像し、少しだけノスタルジーに浸りました。


昨日は神奈川県の外来カミキリムシ研修会でオンライン講師も務めていました。

県庁がアキニレ並木のすぐ近くだと知り、ご挨拶に伺いたい気持ちにもなりましたが、昼休みなので断念。

そして午後の用務先でも、また別のツヤハダ案件が発生。

結果として、

  • 昨日の神奈川県研修会

  • 今朝の自宅近くでの新産地らしき発見

  • 横浜の初侵入地の歴史探訪

  • 午後の新たなツヤハダ案件

という、本来は無関係だったはずの4件のツヤハダ関連案件が、わずか2日間に集中することになりました。

世界が急にツヤハダゴマダラカミキリを中心に回りはじめたような気がします。


少なくとも、私は今日から新たな肩書きを得ました。

「ツヤハダみまわりおじさん」です。

これから先、件のカツラ並木は定期的に見回ることになるでしょう。

茨城県某所で木の根元をのぞき込み、

幹を見上げ、

同じ場所を何度も往復し、

ときに虫捕り網で葉っぱのあたりをガサガサしている人物がいたら、それは私かもしれません。

決して怪しい者ではありません。

いや、行動だけを見るとかなり怪しいのですが、本人はいたって真面目です。

通報は不要です。

 
 
 

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